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2025/08/05
[協力分野]創薬ナノデザイン学分野
低起炎性脂質ナノ粒子による、副反応の低減したメッセンジャーRNAワクチンの開発
創薬ナノデザイン学分野の吉岡靖雄・特任教授らの研究チームは、脂質ナノ粒子の脂質組成を至適化することで、低起炎性の脂質ナノ粒子を作製し、マウスにおいてメッセンジャーRNAワクチンの副反応を低減することに成功しました。
概要
mRNAワクチンは強力に抗原特異的免疫応答を誘導するものの、投与後の強い副反応が問題となりワクチン忌避の要因にもなっています。mRNAワクチンによる副反応の惹起には、mRNAを封入している脂質ナノ粒子(LNP: Lipid nanoparticle)の起炎性が関与していると考えられています。一般にLNPは、イオン化脂質、リン脂質やコレステロールといったヘルパー脂質、PEG化脂質から構成されます。イオン化脂質については我々を含めて、起炎性の低い化合物が探索されてきた一方で(Mol Ther. 2025. DOI: 10.1016/j.ymthe.2024.12.032)、他の脂質成分における至適化は進んでいません。そこで本研究では、LNPを構成するPEG化脂質とヘルパー脂質に注目し、副反応を低減し得る脂質成分・組成を探索しました。その結果、
1)PEG化脂質の分子量や含有量を変化させたLNPをマウスにワクチンしたところ、分子量及び含有量の増加に伴って血液中の炎症性サイトカイン量が低下したものの、抗原特異的な抗体応答やT細胞応答も低下しました。
2)一方で、リン脂質やコレステロールを異なる脂質に置換したLNPをワクチンしたところ、炎症性サイトカインの分泌や発熱が顕著に抑制されると共に、コントロール製剤と同等の抗原特異的免疫応答を示すLNPが認められました。
以上の結果より、イオン化脂質以外の成分であるヘルパー脂質などの改変によって、ワクチン効果を維持しながら副反応を低減可能なLNPを作製できることが示され、mRNAワクチンの課題解決に向けた組成検討の重要性が実証されました。
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金、日本医療研究開発機構(AMED)、大阪大学感染症総合教育研究拠点 (CiDER)、AMED SCARDA ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業「ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群大阪府シナジーキャンパス(大阪大学ワクチン開発拠点)」(JP223fa627002)などの研究支援を受け、一般財団法人阪大微生物病研究会の協力を得て行われました。
本研究成果は、米国科学誌「ACS Nano」に公開されました(2025年7月23日(水))。
論文名:Modulating Immunogenicity and Reactogenicity in mRNA-Lipid Nanoparticle Vaccines through Lipid Component Optimization
雑誌名:ACS Nano
著者名:Yoshino Kawaguchi, Mari Kimura, Tatsuya Karaki, Hiroki Tanaka, Chikako Ono, Tatsuhiro Ishida, Yoshiharu Matsuura, Toshiro Hirai, Hidetaka Akita, Taro Shimizu, Yasuo Yoshioka
DOI:10.1021/acsnano.5c10648